東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)129号 判決
一 請求原因一ないし三は当事者間に争いがない。そこで、原告主張の審決取消事由の有無について判断する。
二 成立に争いがない甲第二号証によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、本願発明の効果とそれが生ずる理由として、「従つてポンプの入口2、3と出口4、6とでは全く逆の軸のまわりのモーメントを流体から受け互に打消し合う。これは1図で説明した事による。即ちポンプのトルクはこれによつて非常に小さなものになるにもかかわらず流体はこのポンプ羽根車の回転速度とより少し小さい速度で流出する事になる。」との記載(四頁一〇行ないし一六行)と第1図(別紙図面第1図)の流体の流れ方及び動圧についての説明として、「流出管1より流出して来た流体3は曲面2で大きく流れの方向を変えて4の方向に流出する。このとき曲面2には流出管1より流出して来た流速だけの動圧を受ける。曲面2が又流出した方向4の方向からも同様な動圧を受ける事は明である。なぜならば流体にその方向に流れる方向を変えただけの反力とも考えられる圧力があるからでこれを動圧としている。言い変えれば曲面2が流出管1の方向から受ける動圧も流出した方向4の方から受ける動圧も同じと言う事である。又流れの方向が変つても損失がなければ流速に変化はない事はあきらかである。」との記載(二頁五行ないし一六行)があることが認められる。
そして、本願発明の軸流ポンプが流体にエネルギーを付与する機械即ち機械的エネルギーを流体のエネルギーに変換する機械であることは、前記当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲及び成立に争いのない乙第三号証により明らかであるところ、前認定の本願明細書中の第1図の流体の流れ方及び動圧についての説明の記載は、力学的エネルギーを持つた流体を流出させてその流れを固定曲面にあて流れの方向を変える場合についての説明に止まり、電動機等から機械的エネルギーを受け取つてエネルギーを持たない流体に力学的エネルギーを付与するポンプの作動に関する説明ではないことが明らかである。そうすると、右の記載は前記本願明細書記載の効果が生ずる理由の説明とはならないところ、前示甲号証によれば、本願明細書には他に右効果が生ずる理由を説明した記載又は本願明細書記載の構成から常に右効果が生ずることを示す実験例等の記載はないことが認められる。従つて、本願明細書の発明の詳細な説明の項には当業者が容易に実施できる程度に発明の構成及び効果が記載されておらず、前記当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲には右効果を生ずべき発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていないといわなければならない。
原告は、本願発明は一〇〇パーセントをはるかに越える効率が生ずると主張し、その理由を説明しているが(請求原因四(二))、右の説明が本願明細書に記載されていないことは右認定のとおりであるから、右の理由説明が首肯できるものであつても、これをもつて審決を取消すべき事由とすることはできない。のみならず、右の理由説明がエネルギー保存の法則に反することは原告の自認するところであり、成立に争いのない乙第一、第二号証に照らせば、右法則が成り立たないとする原告の主張は被告が主張する理由により採用できないことが明らかである。
以上のとおりであるから、本願明細書は特許法三六条四項及び五項の要件を満たしていないとした審決の判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は失当である。
三 よつて、原告の本訴請求を棄却する。
〔編註その一〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
第2、第3図のように軸流ポンプの入口2と出口6の近くに互に逆方向のなめらかな羽根角度3、4を設けその中間の5のところでは羽根が軸とおよそ大体平行になるように構成し、ポンプ羽根車を回転軸の矢印の方向に回転させたとき羽根の5の部分では流体も羽根車と大体同速で回転するようにし、従つて羽根車に流入して来た流体が2、3の曲面において羽根車の回転速度と同じ流速の動圧を生じさせその動圧で第1図のように曲面2、3を滑らせ羽根5及び出口まで羽根車の回転速度と理論的に大体同じ速さの流速を生ずるようにし羽根車の羽根4、6の部分では入口近く2、3の曲面と逆方向に大体同じような動圧を生じさせ入口の部分2、3と出口の部分4、6での回転モーメントが互に大体打消合うようにし、流体の流速の割り羽根車を回転するトルクを小さくするよう構成し性能を良くした軸流ポンプ